まだ倍速で通り過ぎられません

まだ倍速で通り過ぎられません|『1行で難解な名著がわかる本』富増章成

富増章成『1行で難解な名著がわかる本』を読みました。通勤で倍速に慣れた自分がベンサムの項でそのまま説明されていた話と、カフカ『変身』で家族が損得勘定に変わっていくこと、15年前に調子を崩したとき周りには見えていなかったこと、総務としてできることについて書いています。

通勤のポッドキャストは、いつも倍速で聞いています。

倍速でも聞き取れるので、内容はちゃんと残ります。試してみようと思ったネタを仕入れて、実際に動くこともあります。

『1行で難解な名著がわかる本』【PR】(富増章成・大和書房)は、名著50冊を見開きの「1行」に圧縮してくれる本です。

たとえばカフカの『変身』なら「『既に壊れていた関係』が、可視化された物語」。この1行を読めば、輪郭はつかめます。

簡単にしてくれているとはいっても、難しいのは変わりません。それでも1行でどんな本かがわかるのは、とっつきやすかったです。

頭から通して、50冊全部に目を通しました。

116ページで、自分の通勤が説明されました

そのなかの一つが、ベンサムの項です。

18世紀の哲学者ベンサムは、人は快楽を求めて苦痛を避ける、その総和で行動を決めると考えました。

ざっくり言えば、良し悪しを足し算と引き算で決める発想です。

見開きの1行は、こうでした。

「人は、『快楽と苦痛の総和』で行動を決める」

そして116ページに、こう書いてあります。

「動画を倍速で観る、読書要約サービスを利用する、といった行動も、時間という『苦痛』を減らして情報という『快楽』を増やす功利主義的な最適化です」

本が挙げているのは動画ですが、通勤で自分がしているのも、たぶんこれです。

自分がどこに線を引いていたのか

ただ、要約サービスは使いません。理由は単純で、物足りないからです。

速くするのはよくて、短くするのは物足りない。自分でもうまく説明できません。

同じ計算が、人に向いたとき

ここまでは、自分の話で済みます。

本の中では別々の項ですが、自分の中ではつながってしまいました。

さっきのカフカです。『変身』は、主人公のグレゴールが朝起きたら巨大な虫になっている話です。

虫になった理由は、最後まで説明されません。

本書は、主人公から家族のほうへ視点を移すと、違った読み方ができると言います。

グレゴールは虫になる前、家族のために黙々と稼いでいます。稼げなくなると、家族はそれぞれ働きに出ます。

そして、こうなると書かれています。

「労働で疲れ切った家族にとっては、グレゴールが人間か虫かはどうでもよくなり、『役に立つか』『役に立たないか』という損得勘定の視点から彼を見始めたようです」

妹はやがて「あれがお兄ちゃんだという考えは捨てなければならない」と言い放ちます。

グレゴールが死んだ朝、家族は悲しむどころか安堵して、そろって郊外へ出かけました。

著者は、こう書いています。

「現代の職場や家庭でも、同じ仕組みが潜んでいると思うとゾッとします。成果を出している時は感謝され、病気や不調で動けなくなった途端に空気が変わる」

見捨ててもらったほうが、区切りがつくのか

自分の家族は大丈夫だと思いたいです。

絶対というものはないし、自分がその状態になったこともないので、そうでいてほしいという気持ちに近いのだと思います。

ただ、ここから先がまとまりません。

もし自分が迷惑をかけていると自覚したなら、見捨ててもらったほうが、気持ちに区切りがついてよいような気もするのです。

そこは自分でも、まだ決めきれずにいます。

15年前、周りには見えていませんでした

15年ぐらい前に、調子を崩したことがありました。

そのとき周りは、自分がどういう状態だったかを知らなかったと思います。単に風邪みたいなものだと思われていたはずです。

それはそれで、ちょっとどうなんだろうと感じた気がします。

グレゴールは、虫になった姿が家族に見えていました。自分のときは、風邪だと思われていたはずです。

同じ話ではありません。ただ、並べて考えてしまいました。

逆の立場になったとき自分に何ができるかも、まだわかっていません。

いまは総務にいます。せめて、その人ができる範囲で全力を出せる場をつくりたいとは思っています。

意味があると、消耗しないそうです

手がかりになりそうなのが、同じ本の『夜と霧』の項でした。

フランクルが強制収容所で観察したのは、生きる意味を失った者が死んでいく、ということでした。

本書はそれを、そのまま職場の話に引き寄せます。

「同じ仕事でも、『数字を達成するため』なのか、『この仕事が誰かの困りごとを解決している』と捉えるのかで『意味』が変わってきます。なぜか人のためだと力が出るということもあります」

そして、こう続きます。

「意味を感じながらの行動は、疲労しても消耗しません」

誰からも声がかからないクイズアプリ

これは覚えがあります。

kintoneで、事故が起きたときの費用負担がわかるアプリを作りました。

kintoneというのは、社内で使う業務アプリを自分で作れるサービスです。

忙しくて手も足も出ない人がいると、こういうものを作ったり、手伝ったりします。

本のいう「消耗しない」は、このあたりの感覚に近い気がします。

いまは忘年会用のクイズアプリを作っている最中です。早押しもできて、問題数も増やせます。

自分以外の誰が使ってもいいと思っています。

ただ、先週、小さい範囲で動くかどうかを試したところです。

まだ社内には知れ渡っていないはずです。

つまり、いまのところ誰からも声がかかっていません。

仕事の意味という大きな話になると、正直なところ答えが出ません。ただ、働きやすい職場にはしたいと考えています。

ベンサムの項は、こう閉じられていました。

「数値化できない価値をどう扱うかという問いは、功利主義の限界であると同時に、現代社会が答えを出せていない問題でもあります」

通勤のポッドキャストは、たぶん明日も倍速です。

迷惑をかけていると自覚したら、見捨ててもらったほうがいいのか。

そこだけは、まだ倍速で通り過ぎられません。
#献本 #大和書房 #ツナグ図書館

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